暑い日は増えるわ、ワンピースは急な休載あるわで、ダレ気味の今週。
やること多くて時間がない中、わずかな暇を見つけて、青空文庫で面白そうな作品を探していると、なんとなく目についたのが太宰治の作品でした。その名も・・・
「愛と美について」
これはまたタイトルだけで、おバカから文化人まで話しあいで半日はかかりそうな内容な気がします。
今回はこれについて書きたいと思います。
あらすじ
ある兄妹5人は、みなロマンスが好きであった。それぞれ個性、嗜好がある5人は母親と6人で暮らしていた。父はすでに死別しているも、不安のない暮らしであった。
ある日曜日、皆で客間で退屈していた時、物語の連作が始まっていく。
登場人物
・長男
29歳の法学士。
尊大な態度を取る癖があるのに、根はやさしい人物。映画に対して酷評をするも、真っ先にその内容に心を打たれ涙するようなエピソードがあります。
兄妹の中では、想像力が無く、どうも軽んじられている印象があります。ダメ兄と言うより空回りな人物ですね。
・長女
26歳で、鉄道省に勤務。馬顔で眼鏡をかけている。
人とすぐに仲良くなり、奉仕して、捨てられるという一連の流れを楽しみ、趣味にするという、傍から見れば哀れな感情を抱きたくなるような人物。身内だったら不安すぎる・・・!
なかなかエネルギッシュな人物で精神的に病んだことはあっても、身体的にはかなり健康かつ、文学に対してはストイックな面があります。
・次男
24歳、帝大(帝国大学)の医学部に在籍というとんでも人物。ただし体は病弱な模様。
作中に“俗物”と明言されています。“俗物”と明言されています!(大事なことなので2回書く) 他人を蔑む傾向があり、嫌みな笑い声も挙げたりします。
ただし即興詩の出来は、兄妹内で最も良いという。その嫌みな性格ゆえに客観的な見方もできる人物なようです。
・次女
21歳でナルシストな人物。兄妹内で身長が特に低いようですが、四尺七寸ってかなりあるような気が・・・。
鏡で自分の顔や体を見て、笑顔になったり、吹き出物ひとつで自殺を図ろうとするなど、これまたヤバい傾向ありな女性。
翻訳物や同人誌などを好んでいるようですが、ひそかな愛読は鏡花です。たぶん泉鏡花のことだと思います。
・末弟
18歳の高等学校生。
今年、高等学校に入ってから、態度ががぜんと変わったらしく、良くも悪くも真面目な人物。家のもめごとになんでも介入したがるなど、大人びたくてしょうがないようです。
少しおっちょこちょいと作中で書かれていますが、個人的には中二病と高二病が入り混じったような印象でした。
・母親
兄妹たちの母親。5年前に旦那さんとは死別した模様。
詳細は明かされておらず、兄妹たちの連作を聞いています。
読んだ感想
初めに長男、長女、次男、次女、末弟について書かれており、中盤からは退屈しのぎに、彼らが物語を各々に物語を考え、それを繋げていくというもの。
面白かったのは、その物語の連作にあたって、個性がもろに出てくること。話の内容もそうなのですが、文章の書き方も違うのが印象的でした。特に顕著なのが次男。文章がほとんど会話文になっています。これがまた言い回しが程よく大人びていて、絶妙に感情を表している印象です。
また繋いでいく物語も、ある博士を主人公としたちょっとしたロマンスとして面白いです。やっぱり物語は話しあったり、他人の意見を参考にしたりする方が面白くなりやすいですね。
ただこの作品のオチについては、わかりづらく感じました。いや多分、母親のちょっとしたイタズラだと思うんですけど、太宰作品だともっと深い意味があるように思えてしょうがないんです。あったとしても、感性ない私だと理解できるかも怪しいですが・・・。
私が共感した兄妹
この物語、やはり登場人物の兄妹が個性的なのが魅力なのですが、そうなると特定の人物に対して共感的な気持ちを抱いてしまいます。
私の場合は長男と末弟。
まず長男については、長男ゆえに尊大な態度を取ってしまうことと想像力の貧困さ。どうでもいいことにまで責任感を感じてしまい、とかく周りから変な風に思われないために体裁を気にするような性格には、自分にも思い当たる節があります。下の妹や従弟への態度なんか、まさに無駄な感じがあり、最後の長男の蛇足的な物語の追加なんて、既視感が・・・。
想像力の貧困さについては・・・語彙力でお察しください。
そして末弟については、彼が話す物語(?)の内容について共感を得ました。というのも、彼が話す内容は博士のある程度の設定を述べた後は、関係ないような自分の考え、理論、知識のひけらかしになるのです。
彼のその様子は思い当たる節がありますね。オタクが自らの知識をひけらかすにあたって早口になり、それがドン引きされている状態になるやつです。
これがなんというか・・・自分だけでなく知り合い、ひいてはtwitterとかでもざらに見かけるので、読んでいて生暖かい目になっていきました。
でも彼にはフォローしてくれる長女がいるんですよね。いいなー、羨ましいなー。
物語を面白くする方法
さて兄弟たちの話で出来た物語なんですが、短いのに今後が気になる面白さでした。ここ最近、長いわりには続きが全く気にならない本(純文学でも漫画でもラノベでも)に出会う割合が多い私からすると、ちょっと面喰った印象です。
これは持論なのですが、「芯を持ったうえで、他者の作る物語も考慮している」ことが物語を面白くする要因のひとつではないでしょうか。
つまり、相手の物語をしっかり取り入れた(意見もある程度考慮する)うえで、自分の特徴や考えという芯をしっかり表現しているのが面白さに拍車をかけるのではないでしょうか。
そういう意味では、挑戦せずに通り一遍になったり、信者ファンだけのために書くようなものは陳腐になりえます。かといって、自らの意見だけで突き進んでは、製作者の公開自慰行為のように見えて、これもまたキツイものがあります。
要は、前述したことを絶妙なバランスで出来るのが多くの人物が面白いと評価できるものになるのだと思います。もちろんこれが絶対ではありませんが。
しかし物語というのは、改めて無限の可能性を持つ者であることを実感させられます。私も読んでいる途中で、博士をどのように動かすかを妄想してしまいましたもの。個人的には考えていて、バッドエンド方面に向かっていましたが(笑)
そういえば太宰治のこの作品の初出は、1939年の5月だそうです。書かれたのがいつかはわかりませんが、ここの前後数年で自殺未遂や結婚、作家活動、子どもができたりと波乱万丈な時期だったので、家族関係や人間関係で何か思う作品内容だったのかも・・・。それこそ第二次世界大戦勃発近いですしね。
絶賛しているように見えますけど、私はもともと太宰作品はそんなに好きではありませんし、彼の考えに共感するようなことはかなり珍しいです。
もしかして相対的に面白く読めただけなのでしょうかね・・・。でも太宰治って、文章の書き方や言葉使い、言い回しが素晴らしいから、そういった面では見習いたいものです。というか、最近見習ってほしいような作品が粗製濫造されすぎな・・・ゲフンゲフン!
話が逸れましたが、ちょっと暇つぶしに読める程度の長さで、程よく面白いのでお勧めの作品です。
青空文庫の存在にも感謝、感謝!ちなみに私はパソコンの画面だと読みにくいのでダウンロードして、印刷して読むのがたびたび。